存在に耐えられない軽さだとは思わない

この世の旅路は果てしない。「主よみもとに近づかん」が好き。

「夏海(マーレ)、夏海、夏海。―――兄さん、ぼくはいつから独りなんだろう」

長野まゆみ「新世界」という本を、高校生の時に読んだ。

 

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私は昔から、マンガやアニメはもちろん、本もそこそこ読む女だった。

 

 

この「新世界」は、学級文庫にあったものだ。

 

近未来的な世界観で繰り広げられる、美少年同士の絡み。それを直接的な表現をしない、造語の数々。退廃的で、耽美な世界観。

 

 

私は、巷にあふれるご都合主義のボーイズラブは好きではない。でも、萩尾もとや、この長野まゆみの世界観は好きだ。

 

 それは、きっと「生物学的なオトコとオンナの違い」も踏まえたうえで作品が作られているからだと思う。今あるボーイズラブものは、ただ単にヒロインの性別が男だというものでしかなくて薄っぺらすぎてつまらないものが多すぎる。

 

 

そもそも、特に男同士の絡みに燃えるという性質を持っていないのでよくわからない。

 

 

そんな私が、「こんなにもよくわからないけど余韻に浸れる本があるのか…」と思ったのが、この長野まゆみの「新世界」だ。

 

入り江の小舟の
燥いた舷(ふなべり)にナイフで刻んだ
夏海(マーレ)、夏海、夏海
すばらしかったあのかしい煌かしい浜辺で
約束をした
いつかもう一度、集まろう

 

 これは、私が神を知らない時に読んだものだったし、嫌悪感などは特に抱かなかった。造語で暗に語られる行為の数々が、ただ陰鬱で、でもそれは美少年の描写によってかなり薄められているように感じた。

 

 

―――だけど、兄さん
ぼくはいつから独りなんだろう

 

1巻の帯に書いてあったこのセリフ。ストーリーそのものはほとんど覚えていないのだけれど、私はこのセリフだけ覚えている。

 

『いつから独り』、というのは、その時の私には言う権利がない言葉だった。彼氏はいないが家族はいるし、『人間なんてどうせ一人』みたいな斜に構えたことを思っていたから。

 

そもそも私は、人が沢山いるなかで孤独を感じてしまうタイプだった。日本人なら共感してくれる人も多いのではないだろうか。家族であろうが友達であろうが、「同じにはなれない」という悲しみを抱きながら生きていくものだとそう思っていた。

 

 

だから、主人公のこのセリフは、『わかる気もするし、とても中二病』な気もした。でも、とにかく印象に残っていた。私にこのセリフを使う権利はないが、このセリフを発する美少年のことを妄想するとそれだけでご飯が食えそうだった。

 

 

 

数年前の、ある日。私は休日に、髪の毛を切るために美容院へ行った。

 

 

前日、私は当時の…恋人ではないが行為をするための関係だった人と…その人に電話をした。「髪の毛を切ろうかと思うんだけど、ロングが好きならそのままにしておくし、ショートでいいなら切る」と相談したのだった。

 

 

彼とは恋人同士ではなかった。自分の髪型なんか、世の中からみればどうでもいいし、彼からしてみてもどうでもいいことだと思っていた。

 

ただそれでも、唯一「そんなくだらないことを訊ねていい存在」が、彼しかいなかった。

 

 

彼の返答は、よく覚えていない。結局は「ショートは好きだ」ということらしかった。私に何をどうこうしてほしいという希望はなかった。私は、だったらショートでいいか、と思った。

 

 

カットをしてくれたのは男性だった。私の今までの人生ででは、深くかかわったことがないような男性だった。

 

 

「ショートがいいんすか?珍しいですね。カラーもしないし」

 

 

「会社の規定で、染めるのはダメなんです。ショートは、そうですね、・・・彼が、好きだというモノで」

 

 

全く関係ない人間からしてみたら、恋人みたいなモノだと思って、そんなことを言ってしまった。

 

 

「お、いいですね~。これからデートですか?」

 

 

「・・・・あ。はい。まぁ」

 

 

【言葉を失う】ということを初めて体験した気がする。

 

『そんなことあるわけないんですよ。』

 

私はココロのなかでそう言った。

 

『私は独りなんですから。』

  

『私は、独りなんですから。』

 

 

次の日は仕事だった。なんとなくそのまま帰るのが惜しくなって、私はそのまま車を走らせた。ショッピングセンターに行って、ほしいモノもないのにぐるぐるショッピングセンターを歩き回った。

 

服もほしくない。本も読めない。髪飾りも要らない。今、切ったばっかりなんだから。 

 

どうしてこんなにも居場所がないんだろう。どこにも帰る場所がない。 

 

私は、長野まゆみの小説の一節を思い出して、ただ反芻した。

 

入り江の小舟の 燥いた舷(ふなべり)にナイフで刻んだ 

夏海(マーレ)、夏海、夏海 すばらしかったあのかしい煌かしい浜辺で 約束をした

いつかもう一度、集まろう』

 

『―――だけど、兄さん』

 

―――だけど、兄さん。ぼくはいつから独りなんだろう』

 

 

 

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