存在に耐えられない軽さだとは思わない

この世の旅路は果てしない。「主よみもとに近づかん」が好き。

オロナインにステロイドは入っているか~アンチステロイド教の母の幸せ

私は「オロナイン」を使ったことがなかった。

 

どうやら聴くところによると「家庭の常備薬」だそうではないか。

 

なぜ使ったことがないのか。

 

それは「薬」だったからだ。

 

 

 

私と私の母はアトピーだった。

 

母は、私が小6のときに脱ステロイドを試みて、その副作用で、ものすごいことになった。それはそれはすさまじかった。

 

お化けみたいになっていた。

 

 

それ以来、母は頑固なアンチステロイド派になった。

 

我が家の薬箱から、肌に塗るものが一掃された。

消毒液も使わなくなった。

 

『医者嫌い』『病院嫌い』というわけではない。

 

かたくなに「ステロイド」が嫌いなのだ。

 

それはもう、一種のヒステリーなのだ。

 

 

私が社会人になって、どうしようもなくただれてしまった時に、自分の意思で「吸収されにくいステロイド」というモノを買ってみた。

 

とにかく、そのとき救われたかった。

 

 

それに気づいた母は、これまたヒステリックにステロイドを責めた。

 

私は結局、そのときの母のヒステリーに押されて怖くなって、捨てた。

 

 

オロナインが我が家の薬箱に入れられなかったのは、オロナインにステロイドが入っていると母が思い込んでいたからなのだ。

 

 

今、ここにきて私は巷でうわさになっている「オロナインパック」をしてみたくて、オロナインを買った。もちろん、オロナインにステロイドは入っているか?を調べた上で、買った。

 

 

結果、入っていなかった。すくなくとも、公式HPにはそう書かれている。それをしんじないのであれば、私たちの生活は学校の教科書をまるごと疑っていくような根本を崩されているものになっていくだろう。

 

そして、それに気づいた母は、急に「この世の終わりの悲劇」を目の当たりにしたかのような顔で

 

 

「…あんた、オロナイン使いよん?」

 

 

と聞いてきた。

 

 

 

「使いよるよ?」

 

「オロナインは、ステロイドが入っとるって有名なんじょ」

 

 

「調べたよ?入ってないって」

 

 

「有名なんじょ?」

 

 

聴く耳を持たない、とはこのことだ。彼女は、かたくなに今自分の身に起こっておる悲劇を正当化したくてたまらないのかもしれない。

 

 

「調べたよ、入ってないって」

 

「昔から言われよったもん、ステロイドはいっとるって」

 

らちが明かない、と思って公式HPを見せた。

 

【オロナインにステロイドは入っていません】

 

 

「…」

 

 

良い時代になったものだ。私が小学生の時は、「ステロイド一覧」の本を片手に成分をいとうひとつ見ていったのに、今は有名企業なら自らこうやって公言している。

 

 

納得せざるを得ない証拠をつきつけられて、おもしろくなさそうな顔で去っていった。

 

(もちろん、私も公式HPをうのみにするわけではないので、成分を改めて調べてある。少なくとも『ステロイド』が入っていないことは知っている)

 

ステロイドは素晴らしい薬だ、「緊急時」においては。手術時などにステロイドがなければ、化膿や感染率はもっと上がっているだろう。

 

だが、彼女の「ステロイドは悪だ」という盲信ぶりは、もはやカルト宗教に近い。

 

「アンチステロイド教」とでも言おうか。

 

コレが激化すると、私が事故で手術を受けなければならなくなった時などにも「ステロイドは使わないで!」とか言い出すかもしれない。(さすがにそこまでではないと信じたいが…)

 

 

 

…彼女は本質を見誤っている。ステロイドでなくても、副作用のある薬はたくさんある。

 

 

彼女は本質を見誤っている。ステロイドそのものの存在は悪ではない。使い方を間違えるから爆発するのだ。

 

彼女は本質を見誤っているが、そんなことが彼女にとって大事でないことは知っている。

 

そうやって生きてくことが彼女にとって幸せなのだ、と。