私が葬儀の仕事をしながら考えていたこと ~はじめてのナンパ~
これが、ナンパというやつか?
通夜に来た親族の、中年のおじさんだった。
「生花を注文するけん、注文聴いてくれへんか。ロビーに来てや」と言われて注文書を持って行ったら、電話番号を渡されたのだ。
「食事でもいこうや。また連絡して」
『食事でも』と言っても食事じゃすまないのだろう。この人に奥さんらしき人がいるのは、当然接待中に見ている。
私の倍以上生きているだろうこんな人は、若い女の子に声をかけることが楽しいのか。
他になにかないのか。
おじさんの腕でやたらと輝く腕時計を見ながら、そんなことを思った。
『この人は人生に余裕があるんだな。うらやましい。人生に余裕ができたらこんなことをし始めるのか。』
残念な気持ちと、軽蔑と、少しの迷い。
それでも、電話番号をすぐに捨てられない自分に気づいた。
私は、人生が不安だった。
自分が誰かと「公に言えない関係」になるとということは考えたこともなかったが、疲れ切っていた私のココロには少し陰が落ちるようになっていた。
誰かに頼れば楽になるのだろうか。
自分のなかの、倫理観のなさを初めて感じた。
(続く)